飲食店の店長は準備業だとよく言われます。
日々お店を営業していくには、お客様を常に良い状態で受け入れる体制をとっておく必要があります。店長が想定したとおりの時間、人数でお客様が来ていただければ楽ですが、そんなことはありません。ですからいつでもお客様へ最高のパフォーマンスを発揮できるよう準備が欠かせません。
私は過去に「仕事量の配分は準備7割、実行2割、片付け1割だ」としばしば言われました。片付けを次の準備と捉えると、準備が8割になります。
「仕事の成果は8割準備で決まるんだ」と教えられました。
では具体的にどのような準備をすればよいでしょうか。
代表的な4つの準備作業をまとめておきます。
これを読めば、飲食店の店長の仕事で最も重要なことがわかります。
4つの準備作業
4つの準備作業は以下の通りです。
①客数予測
②発注
③スタンバイ
④ワークスケジュール作成
これらについて順番に書いていきます。
店長の4つの準備作業1つ目・客数予測
レストランはお店にお客様が来店されてからすべてが始まります。
お店の作業はお客様の数に応じて作業量が変動しますよね。なので、客数予測を立てないと「いつ」「何の」準備作業を「どれくらい」すればよいか分かりません。ですから、まずは客数予測を立てる必要があります。
<予測の立て方>
ではどうやって予測を立てていくか。これには絶対という正解はありませんが、私が思う王道を紹介します。
参考にするのは、直近3ヶ月の客数前年比、既に受けている予約客数、宴会やコース料理の予約数。セールや近隣の行事、イベント、天気などです。
予測はまず大きな数値を決めて、そこから小さくしていくとブレが少なくなります。
具体的には、月間を決めてから週間へ。週間を決めてから日毎へ。日毎が決まったら時間帯へといった感じです。
<客数予測作成手順>
① 1か月の客数予測を立てる
直近3ヶ月の客数前年比の推移を見て、翌月は何%の客数となるか大枠を決めます。
例)当月中旬には翌月の予測を立てる
直近前年比 9月・98% 10月・100% 11月101% ⇒ 12月は102%だ!
② 2週間分の週間予測を立てる
ワークスケジュールを作成するために2週間先の客数予測をしなければなりません。
当初立てた月の予測に対するズレを確認し、その数値をもとに予測を立て直してください。
例)11月中旬に12月第1週目と2週目のワークスケジュールを作るため予測をするとします。
当初予測していた11月の予測と現段階の実績客数がどれくらい乖離しているか(予測比)を調べておく。
当初11月は前年比100%と予測していたが、101%で推移している。
先月、先々月の数値を見ると、少しずつ客数が伸びている。
⇒12月第1週と2週は102%で予測を立てよう。
1週目、2週目はそれぞれ週間で2000名だ!
こんな感じで直近の数値を優先して考えていきます。
③ 日毎に予測をする
1週間単位で決めた週間客数を日割りして、1日何名来るのか、決めていきます。
1)構成比から算出する方法
曜日毎の構成比を割り出しておき、週間客数を割り振ってください。
例)今週は週間で2000名の予測だ。
月曜日の曜日構成比は8%だから、2000×0.08=160 ⇒ 月曜日は160名
火曜日の曜日構成比は8.5%だから、2000×0.085=170 ⇒ 火曜日は170名
水曜日は・・・・
こんな感じで予測した週間客数を1日単位に落とし込みます。
2)日毎の前年比から算出する方法
曜日毎に、自分で決めた前年比を掛け算して予測客数を算出する。
例)月曜日 前年160名 160×102%=163名
火曜日 前年170名 170×102%=173名
水曜日 ・・・・
このように日毎に計算して予測数値を決めます。
次に、1週間分を合計して当初決めた週間予測客数と比較します。乖離があれば調整します。
月・163名+火・173名+水・185名・・・=2050名
当初の週間予測は2000名、50名多くなってしまった。
⇒平日10名減らそう。全曜日均等に減らそう。などと調整します。
3)時間帯の客数予測をする
1日の客数が決まったら、各時間帯に何名来るのか決めます。
過去のデータから構成比を割り出しておき、それをもとに作れば簡単です。
12/1(月)11~12時 30名、12~13時 50名・・・。
4)ワークスケジュールを作成する
1)~4)までの工程を完了し、予測数値が固まったら、2週間先までワークスケジュールを作成します。これで店を動かす準備完了です。
このように最初に大枠(月間)を決め、それを小さくし(週間)、さらに日割にして、時間帯まで落とし込み、予測を立てます。
毎日営業しているので、日々自分が立てた予測に対してのズレを確認してください。
そのズレの数値をもとに予測を修正しましょう。
予測は直近の数値を見ながら、まめに修正することがポイントです。
本日の数値を見て、翌日を。ランチの客数を見て、ディナータイムの客数予測を
修正します。それを元に食材のスタンバイ量や人員配置、シフトの修正をしていきます。
その結果、良いオペレーションができ、お客様に満足してもらえると思います。
<予測のまとめ>
客数予測の的中率が上がると、安定した営業ができてくるので、働きやすくなり、従業員にとっても、お客様にとっても良いです。機会ロス、食材ロス、人件費の過不足が減っていくでしょう。予測が当たって会心の営業ができると店長の仕事が面白くなります!
日々数値を追って予測に慣れて行ってください。
店長の4つの準備作業2つ目・発注
店長の準備作業2つ目は発注です。
毎日忘れずに適正量発注することはもちろんですが、力を入れるべきは適正の在庫量を決めることです。
毎日の発注作業は部下やパート、アルバイトさんに任せて良いのですが、適正在庫量や発注の基準値は店長が決めるべきです。
キッチンの責任者に任せる場合は、任せっぱなしにせず、確認が必要です。
発注が適正に行われないと、欠品が発生しオーダーストップ商品が出てきます。お客様は食べたかったメニューが食べられなくなり、失望され、時に大きなクレームにもなります。
過剰に発注してしまうと、食材の鮮度劣化が起こり、品質が低下します。また、ロスも発生しやすくなるため材料費の無駄になります。
<適正在庫量について>
システムが整っている会社であればPOSデータを元に適正在庫が算出され更に予測客数を組み込めば、発注量まで算出してくれると思います。発注まで自動化しているかもしれません。
全くシステムもなく、手作業で在庫量を決める場合、100名指数という数値を使って在庫量を算出していました。
ちなみに100名指数とは、お客様が100名来た場合どれくらいの出数があるのかを表す数字です。この100名指数を使って、在庫量の算出の仕方を紹介します。
<在庫量算出手順>
①一定期間(1か月単位が良い)で各メニューが100名当たり何品注文されているか算出します。
例)客数10,000名/月 単品牛タン500人前/月だったとすると
500人前÷10,000名×=0.05 ⇒ 客数1名当たりの注文数
0.05×100名=5 ⇒ 客数100名当たりの注文数
100指数「5」となる。
お客様100名来たとすると5人前は出ている、という数字。
②使用されているメニューの全分量を算出しておく
例)単品牛タン1人前 100g
③100名指数での食材使用量を算出する(100名来た時の理論使用量)
例)単品牛タン100名指数5・牛タン1人前 100g
5×100g=500g
100名来たとすると牛タンは500g必要
④予測客数をかける
200名の予測では、
例)上記の3より、牛タンは100名当たり500g必要
⇒ 200名予測なら、1,000g必要となる。予測に連動した在庫量が算出できます。
⑤余裕を持つ
算出した適正在庫より少し多めに在庫を持ちます。
上記の適正在庫はデータを元に算出しましたが、実際の来客数はデータ通りにはなりません。
注文内容も偏ることは日常です。
しかし、オーダーストップを恐れて多すぎの発注では適正在庫算出の意味がありません。
どれくらい余裕を持つかは食材によるでしょうし、経営者、店長の考えによっても
変わると思います。そこは店内、社内で協議して決めてください。
(主力商品は100名指数基準値の1.3倍。他は余裕を持たない、など)
<発注のまとめ>
分かりやすいように上記の例では牛タン1品で記載しましたが、実際は1つの食材が多くのメニューに使用されるため、計算は複雑で面倒となると思います。全てのメニューや食材を手作業で集計、計算していたら大変な作業量でそんな時間がないという人は、おおよその数字を決めて、営業しながら修正していっても良いと思います。
AIが発達してこのような適正在庫量算出や発注作業はどんどん自動化していくと思いますが、店長として考え方は理解していた方が良いと思います。
店長の4つの準備作業 3つ目・スタンバイ
3つ目はスタンバイです。
お店を開ける日は、毎日その日売るための準備をしなければなりません。
それがスタンバイです。ここでいうスタンバイは食材の一時加工の「仕込み作業」、仕込んだ食材を調理ラインに補充する「補充作業」両方含まれています。
<スタンバイについて>
お客様の注文が入り、「いざ調理だ」と取り掛かっても食材を準備してなかったら調理の取り掛かりが遅れ、その結果提供時間が遅れます。
しかし、スタンバイ切れを恐れ大量に準備しても、余らせてしまったら食材ロスにつながります。スタンバイ作業時間も過剰となります。ゆえに、発注同様スタンバイも適正量の算出が大事です。
スタンバイ量の算出方法は、基本的に発注量の算出手順と同じです。
<スタンバイ量算出手順>
① 使用量の算出
仕込みする商品の使用量を出数から算出します。
例えば、サラダミックスで考えてみると、サラダミックスを使用しているメニューの一定期間の出数(1か月単位が良い)を算出します。
例)客数10,000名/月
1)シーザーサラダ200品 レシピ分量50g ⇒ 10,000g/月使用
2)グリーンサラダ300品、使用量150g ⇒ 45,000g/月使用
3)日替わりサラダ200品、使用量50g ⇒ 10,000g/月使用
② 100名指数での使用量を算出
上記の例で、
1)+2)+3)=65,000g 客数10,000名で65,000g使用だから、
65,000g÷10,000名=6.5g ⇒ 客数1名当たりの使用量
6.5g×100名=650g ⇒ 客数100名当たりの使用量
③予測客数をかける
200名の予測客数では、
例)上記の2より、サラミックスは100名当たり650g必要だから
⇒ 200名予測なら、1,300g必要となる。
予測に連動した仕込み量が算出できる。
④少し抑える
③で200名の客数予測ではサラダミックスは1,300g必要となりました。
スタンバイの場合はこれより少し抑えます。
目安として80%くらいに抑えた方が良いのではないでしょうか。
1,300g×0.8=1,040g ⇒ スタンバイ量は1040g
端数は切り捨てても、切り上げても店長の判断で良いと思います。
また、どれくらい抑えるかは会社と協議するか店長が決めれば良いと思います。
なぜ、スタンバイ量を抑えるかというと、鮮度管理するためです。
食材は加工すれば鮮度はどんどん落ちていきます。予測を割って客数が落ち込めば、食材が余ってしまい鮮度劣化してしまいます。ひどい時は廃棄しなければなりません。
ピークタイムを過ぎれば、オーダー数は減ります。だから、ピークタイムを乗り切れる量あれば良いのです。ピーク後であれば、スタンバイ切れした食材を加工しながらでも間に合うと思います。
<スタンバイのまとめ>
一時加工が必要なものについては上記の手順でまず、使用量を算出し、次に100名指数算出、最後にスタンバイ量を算出してスタンバイ表にして使用してください。
スタンバイは提供時間を死守するのに重要ですが、やりすぎれば品質低下、ロスの増大になります。店長はキッチンの責任者と共通認識をとり、スタンバイ量とスタンバイ完了状況を毎日確認してください。
私はランチピーク前、ディナーピーク前は必ず冷蔵庫を確認していました。
スタンバイ漏れにも気付いてあげられます。ピークタイムに乱れた営業はしたくないですからね。
店長の4つの準備作業 4つ目・ワークスケジュール
店長の4つの準備作業はワークスケジュール作成です。
客数予測に対してどういう人員配置で営業に望むかが書かれており、いつ、誰に何の作業をしてもらい、どうやってお店を運営するかが示されてある帳票です。
ただの出勤簿ではなくその日の営業をするための指示書であることを理解しましょう。
客数予測が決まると当日の作業量が決まります。
作業には難易度があるので、量と質に見合った人をあてがいます。
その日、その時間出勤できる人をスケジューリングし、その後その人に作業を当て込むのではありません。
<作成手順>
① 従業員の月間勤務スケジュール表を作っておく。
② ①の表に従業員の一ヶ月の契約曜日を記載しておく。
③ 各従業員のシフト変更願いを月間勤務スケジュールに記載して、今月誰が何日、何時〜何時まで勤務できるか表にしておく。
④ 日割の予測客数を立てる。
⑤ 時間帯予測客数を立てる。
⑥ 日割の労働時間算出。
一日の労働時間を時間帯別に割り振る
時間帯客数に応じてワークスケジュール作成する。
スケジュールを発表したら、従業員からサインをもらう。
<ポイント>
・シフト変更願いをもらった段階で、人員不足曜日、人数を洗い出しておく。
・人員不足に対してはあらかじめ、従業員と交渉しておく。
・スケジュール発表は週1回、2週間先のものを発表する。
(発表が遅いと他のアルバイトは他の予定を入れてしまいますね)
・繁忙期(年末年始、GW、お盆休みなど)は1ヶ月以上前位からアルバイトのスケジュールを抑えておく。
・ワークスケジュールに作業割り当て、作業指示を記入しておく
<ワークスケジュールのまとめ>
ワークスケジュールが毎週2週間先のものが発表されれば、従業員は予定を立てやすく、働きやすくなります。お互いの信頼関係ができてきます。予測に応じた人数を揃えるだけでは、満足のいく営業はできません。
人揃えとは、人数×能力です。オーダーしか取れない人で人数を揃えてもオペレーションは成り立ちません。客数予測、日々のトレーニング、人員不足が生じないための交渉など日々の積み重ねの結集がスケジュール表となり、お客様に満足してもらえる体制ができます。
店長になりたての時に「ワークスケジュールさえしっかり発表されていれば店は動くから、とりあえずこれだけは頑張れ」と言われました。確かにそうでした。
まとめ
店長の4つの準備作業をまとめました。
客数の構成比や100名指数を使い始める時はデータ収集に時間がかかりますが、エクセルで一度表を作ってしまえば楽になりますよ。実績の客数と予測客数を毎日見て比較していけば傾向をつかめます。
4つの準備業ができれば安定的にお店が運営できると思います。ぜひ参考にしてみてください。
今回の記事が店長のお役に立てれば幸いです。