飲食店の心臓部キッチン。それをスムーズに回していき、美味しい商品を提供し続けることは最も重要です。キッチンから料理がスムーズに出なければお客様の満足は得られません。飲食店で働く皆さんなら身に染みて分かると思います。
キッチン作業で重要なことは、まずキッチンで働く従業員はメニューを一品、一品、作れるようになること。そして、さらに重要なのはピークタイムに各メンバーが作る料理に順番を付け、遅れなく提供できるようにコントロールする司令塔の役割です。
この司令塔の役割の「デシャップ」について過去の記事をまとめました。パート、アルバイトの皆さんも、正社員の方も読んで参考にしてほしいです。
これを読めば、デシャップの役割、ポイントが分かると思います。
デシャップとは
多くの場合デシャップとは、キッチンをコントロールする人、司令塔の役割をする人という意味で使われます。
料理を早く正確に提供する上で最も重要なポジションです。
このデシャップという言葉は英語の「Dish up」からきています。飲食店勤務しか知らない業界用語ですね。
キッチンで出来上がった料理をフロアの従業員へ渡す場所のことをデシャップ
(デシャップカウンターとも言う)という場合もあります。
店内で最も大事な場所であり、ポジションです。
デシャップコントロールについて
デシャップがする重要な仕事がデシャップコントロールです。ではデシャップコントロールとはどんなことか。それは、
①スタンダードな商品提供
②優先順位通りの商品提供
③規定時間内に商品提供する
④確実な商品提供(漏れ、間違いがない)
⑤ ①~④ができている状態を仲間を使って作ることです。
この①~④の状態を作るにはポイントが5つあります。それを説明していきます。
デシャップコントロール5つのポイント
①スタンダードな商品
英語でスタンダートとは標準ということ。チェーン店のキッチンでは決められた通りの商品ということです。
すなわち、レシピマニュアル通りの味付け、調理、盛り付けができている商品です。
自分が美味しいと思う味付けに変えてはいけません。
手間を省いて盛り付けを簡略化してもいけません。お客様はメニューブックの写真を見て注文しています。写真より貧相な商品を出したら期待を裏切ります。
デシャップ担当はこのスタンダードな商品が作れて、それを理解し、提供される料理をチェックできる人でなければなりません。
スタンダート以下の商品が出て来たら、修正や作り直しをさせなければなりません。
出した料理が提供されず、カウンターに放置されていたら劣化する(冷めてしまう、麺が伸びるなど)前に、フロアの従業員に運ぶように指示もしなければなりません。
余談ですが、アメリカのレストランを視察した時もデシャップ担当は商品チェックを欠かさずしていました。
常にフロア従業員と相互確認をしていました。こういった積み重ねが、安定した料理提供へつながり、お店のファンが増えます。そして、外食の価値を高めます。
②優先順位通りの商品提供
和洋中問わず、料理には順番があります。
いきなりメイン料理から届いてきたら、皆さんどう思いますか。また、料理の後半に前菜が来ても食べる気になれません。
お子様メニューが大人より遅れて来たら親御さんは困ります。順番通りに提供しないとお客様の食欲を削いだり、楽しいお食事の場を崩してしまいます。
ですから商品提供に優先順位というものが生まれます。その通りに提供することがマストです。
デシャップは優先順位を理解し、全員に守らせます。
優先順位を崩し、自分が調理しやすい順番で料理を作らせてはいけません。また、順番が崩れないように各ポジションの調理の進行状態を確認します。
③規定時間内の料理提供
満腹で外食へ出かける人はあまりいません。お客様はお腹をすかせてご来店します。
ですから、料理提供は早いに越したことはありません。ただ、早くしようと思っても商品を作るための調理時間は短縮できません。
例えば、忙しいからといってパスタの茹で時間を短縮することはできませんよね。
なので、遅れが生じないように各ポジションの作業量・進行状態を確認します。
自分の働く店舗や会社の決まりで提供時間の目安や基準があると思います。
(ランチタイムは10分以内、ディナータイムは15分以内など)
それを超えないようにすることです。
どんなに綺麗で美味しい商品でも注文後30分待たされたら、満足度は半減します。
また、提供時間が遅れれば遅れるほどお客様の滞在時間も長くなり、回転率は落ちます。結果、売上にも影響を及ぼします。
提供時間が早くなればキッチン内でテンポが生まれ、お店も回り出し、フロアの従業員が料理の請求におびえることなく働くことができます。
そして、店内の雰囲気も非常に良くなります。提供時間が早い(遅れない)ということは店にとって最も重要なことです。
なので、提供時間にはこだわってほしいです。
④確実な料理提供
キッチンには伝票が飛んできます。一枚の伝票が一組のお客様。その一枚の伝票に記載された商品を全て出しきることがキッチン従業員の使命です。
ここで重要なのは確実に手渡すことです。
つまり、フロアの従業員と連携して相互に確認し合い、間違いをなくすことです。
デシャップが順番通り漏れなく商品を出したとしても、間違えた場所に運ばれてしまえば作り直しです。
また、キッチンメンバーが作ったつもりでも出来ていなかったり、数を間違えて、足りない。なんていうこともあります。
こういうミスでキッチンは大きく乱れ、その後のお客様の提供時間が大きく遅れることもあります。ですから、確実な料理提供が重要です。
⑤ポイント ①~④の状態をつくる
「状態をつくる」というのが重要なポイントです。
自分が作業に没頭し、他のポジションの状況がわからないとか、
仕上がった料理を全くチェックできていないとか、
オーダーと違うテーブルに運ばれていても気づかない、
などという状態ではデシャップは役割を全うしていません。
重要なのは「キッチンのコントローラーに徹する」、ということです。
おそらくこれを読んでいる方のお店でキッチンを一人で回している人は少ないと思います。
キッチンは複数でオペレーションしているでしょう。ピークタイムとなれば、この複数のメンバーと分業してオーダーを作ります。
各ポジションに配置された人員、メンバーの能力に応じたオーダーが入ってくれればやりやすいですが、そんなことは皆無です。
天候や客層、団体様の来店によりオーダーの量も違えば、オーダーの内容も変わります。
調理ミス、フロアの提供ミス、オーダーの取り間違いなど不測の事態はしばしば起こります。
刻々と状況は変わりますが、デシャップ担当は状況を見極めコントロールしなければなりません。
つまり、作業指示と作業割り当て変更を繰り返し、他のメンバーを動かして、
スタンダードな商品を、優先順位通りに、規定時間内に、確実に提供する状態を作る。
これが最も重要なことです。
これがデシャップの仕事であり、デシャップコントロールという技術です。
以上の内容を覚え、自分に不足している点を顧みて日々の営業でこの技術を身に付けるよう取り組んでみてください。
デシャップの4つのコツ
これまでデシャップコントロールとはどういうことかを説明してきました。
次は実際にキッチンでデシャップコントロールをする際どういうことを見ていけばよいか説明していきます。現場で作業する際4つのコツを覚えて実践してみてください。
これを読めばうまくできなかったデシャップが上達していくと思います。
①着工の確認
調理時間は短縮できません。
例えば、麺の茹で時間を忙しい時だけ短くする。焼成時間を短縮する。冷却時間を短縮するなど。このようなことは品質に関わるので当然やってはいけません。
ですから、提供時間短縮にはいかに早く調理に取り掛かるかがカギです。
デシャップはお客様からのオーダーは入ったら、「オーダーです!」とキッチン全員に呼びかけ、すぐに着工させます。
スタンバイやサイドワークなどを止めさせ、全員が商品作成に取り掛かっているか確認しましょう。
特にピークタイムが始まる時間はすぐに取り掛かります。ピークタイムのスタートでつまずくとその後提供時間を回復させるのは大変です。
②先頭伝票の確認
キッチンへはオーダーを取った順で伝票が入ります。
ピークタイムは伝票がずらりと並ぶでしょう。並んでいる伝票の一番目、つまり先頭伝票が今完成させるべき商品です。
その先頭伝票の商品が正しくフロアメンバーに手渡せているか確認していきます。
各ポジションで順番がずれていないか。また従業員が作りやすい順番に変えていないか確認します。ズレていたら、修正指示をします。
先頭伝票から順番に仕上げていかないと、フロアメンバーは混乱しスムーズに運べません。
完成した商品がカウンターにたくさんあっても、お客様へ届くのが遅れてしまいます。
③遅れの確認
オーダーが続くピークタイムでは必ず注文商品の偏りが出てきます。
つまり、ポジション毎に作業量の比重が変わってきます。放置すれば作業が重いポジションがどんどん遅れ、同時同卓の商品提供が難しくなります。
ですから、デシャップは今どこのポジションに作業が集中しているのか、また、これから集中しそうなのかを予測し、遅れを察知していきます。
そして、遅れないよう手を打ちます。そのためには、伝票と各ポジションの従業員が今何を作り、何に着手しているか目と口で確認します。
「ストーブ:生姜焼きやってるか?次の親子丼の鶏肉煮てるか?石焼の器は焼いてる?」
「揚場:トンカツ入ったぞ。今何枚揚げてる?次は唐揚げだよね。」
などと伝票を見ながら口頭で確認し、実際に見ながら遅れていないか確認していきます。
遅れていたり、明らかに一人で捌けない量のオーダーが入っていたら、進みすぎているポジションの担当者を動かし、遅れているポジションへ一時的にフォローに行かせます。
バックヤードでスタンバイしている人を調理フォローに呼ぶのも良いでしょう。
「○○さん、それが作り終わったら、ストーブの盛り付けフォローに入って!○卓の商品まで出したらまた戻って!」
このように軽めのポジションや進みすぎているポジションの従業員を動かし、料理提供が詰まるポジションをなくしていきます。
あらゆる手段を使って、遅れを回避します。キッチン従業員の優先順位第一位は商品作成です!
バックヤードでスタンバイしている人、洗い場にいる人などもフル活用します。大ピンチの時は店長を呼んで、キッチンに入ってもらうなどして、フロア従業員を含めお店全体で手を打ちます。
やがて、遅れていたポジションの回復が見えて来たら、動かした人を元のポジションに戻します。戻す指示も忘れないでください。
④漏れの確認
先頭の伝票が滞留している場合があります。商品が全て揃っていないため伝票が留まっているのです。
キッチンでは料理を出したつもりでも、実は出ていなくて伝票がなくならないということもあります。そんな時はおそらく、商品が漏れています。
和食系のレストランではお盆に複数の料理をのせて一つの御膳料理として提供します。お盆に一品不足しているだけで完成品ではないので運べません。
ですから、デシャップは常に先頭伝票の商品に漏れはないかフロア従業員と連携し確認が必要です。
もし、先頭伝票の商品で漏れがあったら、最優先で作成するよう指示を出します。たった一品不足しているだけで料理が運べず、熱々の商品が冷めてしまっては全て作り直しになってしまいます。
どうしても漏れが発生した商品が遅れてしまうなら、それ以外を先に運んでもらうなどの対応も必要です。
「あと○分でできるので、他の商品を先に提供してください」などとフロアと協力して提供の流れを止めないようにしていきます。
フロアメンバーとは何度も確認作業をしましょう。
まとめ
以上のデシャップの4つのコツは常に同時進行で確認していく必要があります。
伝票内容、キッチンメンバーの動き、料理の仕上がりスピード、フロアメンバーの提供状況など常に確認してください。
デシャップは司令塔です。指示、確認がメインの仕事となります。
自分が調理作業に入りこみ、全体を見られなかった結果、漏れや、順番の乱れで提供時間を遅らせては意味がありません。それではデシャップの役割を全うしていないこととなります。
キッチン作業で困っている方、ぜひ参考にして日々の営業で実践してみてください。
料理を作るのは得意だけど、デシャップが苦手だという方には特にお役に立てる内容だと思います。
また、自分ではできるけどデシャップをどう教えてい良いか分からない方へも参考になると思います。
この記事を読んでスキルアップと部下の教育に役立てていただけたらうれしいですが、もしわかりにくかったら、他の方が書いている記事もリンク貼ります。合わせて読んでみてください。